ゴリラ顔の父を泣かした映画 ~チャンプ~

2006-11-05 17:00:00

「泣けない映画は映画ではない」というのは巨匠・黒澤明の…作品を愛してやまない僕が今つぶやいた言葉。「映画っていうのは泣くために観るもんだ!」という強引な決め付けのもと、泣ける映画をガンガン紹介していく、それがこのブログのテーマ。

さて記念すべき第1回目に取り上げる作品は、「キング・オブ・泣ける映画」の称号を(僕によって)与えられた「チャンプ」。
恋愛モノに弱い人、友情モノに弱い人、「泣ける」映画に対する好みは人それぞれあると思う。でも、この作品にはそんなもの関係ない。催涙弾のように勝手に涙が出てきちゃう。きっと世界中で一番多くの人を泣かすことのできる映画だと思う。
ちなみにこの映画は親子モノ。
観ている人を泣かせるには、人と人との絆が必要不可欠だと思うけど、親子の絆っていうのは他人との絆とはやっぱり別格。泣ける映画の題材としては理想的だと思う。

僕が「チャンプ」という映画をはじめて知ったのは小学校のとき。父が母に「泣ける映画」について話していた。
「チャンプっていう映画な、俺の友達が観てめちゃくちゃ泣いたっていうとってんな。あんなに泣いたん生まれてはじめてやって。そいで俺も観てんけど、いやぁ、泣いてもうたな~」
僕は衝撃を受けた。映画を観て泣く父の姿なんてまったく想像できなかったから。
うちの父は筋肉ムキムキで、ゴリラ顔で、めちゃくちゃ怖くて、涙とか弱音とかそういうものから一番遠い人だと僕は思っていた。

父の性格を表すエピソードをひとつ。
僕が幼稚園の頃、家族で海へいった。砂浜じゃなくて岩浜で、足場が不安定だから僕は四つんばいになりながら、ちょっとずつ進んでいた。そしたら父が突然「ほりゃ!泳いでみい!」と叫んで僕を抱え上げ、海へ放り投げた。大人だって足がつかないようなところに。当然僕は溺れた。父はしばらく笑って見ていたのだけど、僕がホントにヤバイ状態だと分かると慌てて助けにきた。
わが子を谷底に突き落として、でもやっぱ助けちゃう、みたいな、まあとにかく豪快な父。
僕は今でも、投げられる瞬間の父の笑顔と、母の驚ききった顔をはっきりと覚えてる。
小さい頃の一番鮮明な記憶のひとつだ。
死にかけたんだから当たり前か。
そのあと僕は助けられた父の背中でめちゃくちゃ泣いたのだけど、悲しいとかそういう感情はほとんどなくて、とにかくびっくりして体が勝手に泣いちゃうって感じだった。
しがみついてた父の背中はすごく頑丈で、この人がそばにいたら何が起こっても大丈夫なんだっていう絶対的な安心感みたいなものを感じたことも良く覚えている。

で、そんな強い父を泣かせた映画として、「チャンプ」というタイトルは、当時映画なんてまったく興味なかった僕の心にも強く残った。

それから時が流れて、僕は大学に通うために上京したのだけど、大学生ってめちゃくちゃヒマなんだね。映画を観るくらいしかすることがなくて、そんなときに「チャンプ」をた。

「チャンプ」のストーリーをごく簡単に説明すると、ボクシングの元世界チャンプだったビリー(ジョン・ボイド)が、一人息子T・J(リッキー・シュローダー)と一緒に、もう一度チャンピオン目指して頑張るっていう話。
別れた妻アニー(フェイ・ダナウェイ)が出てきたりして、随所に泣き所が散りばめられている。

ただ、この作品の最大の見所はなんといってもT・J。すごいよ。特にラスト。
涙っていうか、嗚咽が止まらなかったもの。ビリーが父と重なっちゃった…っていうのもあるんだけど、それよりなによりT・Jの泣き顔ね。
泣きじゃくってるT・Jを見てると、この子の涙は僕が溺れたときに流した涙よりも重いものなんだって気がした。あのとき僕は死ぬんじゃないかと思って泣いたわけだけど、T・Jはこれから生きてかなくちゃいけないことに対して泣いてる。たぶんそれはこの世で一番つらい涙で、幼くてかわいい子どもがそんなふうに泣かなくちゃいけないことに対して、僕は悲しくなったのだと思う。

さて、そんなこんなで大泣きした僕だけど、エンドロールが流れて涙もおさまってきた頃には「この映画は反則だ」っていう思いがこみ上げてきた。
野球でいえば180kmのボールを投げられた感じ。
「そんなの泣くに決まってんじゃん!ズルイよ!」っていう気持ちね。

というわけで「泣ける」という点においては、この映画の上をいくものはないでしょう。
「えぐっ…えぐ…っ…ぐふんっ」ってなるから、男性は一人で観た方がいいよ。

ちなみにこの映画を観たあと、
「この前、チャンプ見て泣いてもうたわ」
って父に報告したのだけど、
「ああホントか。俺はスラムダンクが終わってから読んどらんわ」
だって。
…あの、それさあ、「ジャンプ」じゃないの?
そんな父は今でも僕のチャンプ。
ビリーじゃなくてガッツ石松を彷彿とさせるチャンプ。

Category : 親子

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